太陽光発電 藤枝の住民、業者と対立
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入以来、日照時間の長い静岡県内で、太陽光発電の売電事業に参入する事業者が増えている。原発に代わるエネルギー源として期待される一方、藤枝市では住宅街に太陽光パネルの設置を計画する業者と住民の間でトラブルも。パネルの設置場所や枚数などに法的な規制がほとんどない現状が背景にあり、同様のトラブルが相次ぐ恐れもある。
「健康被害が出たら、補償はどうなるんだ」「景観が破壊される」。昨年末、藤枝市駿河台の公共施設で開かれた業者と住民側との意見交換会。出席した約二百人の住民は次々に不満を訴えた。
静岡市葵区の不動産開発会社が、藤枝市南駿河台の住宅街斜面(約一万平方メートル)に約四千枚の太陽光パネルを設置する計画を提示したのは昨年八月。住民は反射光のまぶしさや目への影響、景観悪化などを訴え、計画撤回を求めている。
住民を代表して交渉に当たる岡村禎二さん(70)は「売電事業自体は悪いことではないが、住宅街のど真ん中にパネルを設置するのはおかしい」と憤る。
同社はパネル数を半分にするよう計画を変更。設置場所も住宅に影響の少ない地点に変え「反射光が当たらないよう配慮した」(同社幹部)というが、あくまで計画撤回を求める住民側との折り合いは付いていない。
同社側は「これ以上の妥協はできない。二月中には着工したい」との意向。一方、住民側は訴訟の準備を進めており、解決への道筋は見えないままだ。
計画自体は法律違反ではないため、行政も手をこまねいている。藤枝市は「住民の生活を脅かす計画」と住民側に理解を示すが、撤回させるだけの法的な裏付けはない。市幹部は「法律どころか、景観や近隣への配慮に一定の基準を示す指針すらない」と国や県の後ろ盾がないことへの不満を漏らす。
経済産業省によると、太陽光パネルの設置場所を規制する法律は保安林伐採禁止を定める森林法と、農地法のみ。工場に設置する場合は工場立地法に基づいて枚数が制限されるが、地権者の同意が得られれば、農地と森林以外は事実上、設置し放題。担当者は「原発の代替エネルギー源として、再生可能エネルギーの普及を進めている最中。規制を緩和することはあっても、強化することは考えにくい」と言い切る。
静岡県エネルギー政策課によると、昨年一年間の日照時間で、県内四カ所の観測地点が全国トップ10に入るなど、県内は太陽光発電の好条件がそろう。買い取り制度導入後、太陽光による売電事業で国の認定を受けた県内の事業は全国三位の千八十七件(昨年十一月末現在)に上る。今後も多くの参入が予想されるが、同課の担当者は「条例などでの規制は考えていない」と話す。
(記事:中日新聞)