スーパーの屋根を発電所に メガソーラー構想が始動
2012年7月に再生可能エネルギーの全量買い取り制度が始まったのを受け、各地で「メガソーラー(大規模太陽光発電所)」が建設されている。太陽光発電は、買い取り価格が高い上に工期が短いため、他の再生可能エネルギーに比べて投資対象になりやすい。特にメガソーラーに投資が集中している。
その中にあって広い地域にまたがるメガソーラーのビジネスが動き始めている。全国のスーパーマーケットの屋根に太陽光パネルを設置し、全体でメガソーラーとするプロジェクトである。これを手掛けているのが、エネルギー・マネージメント・ソリューション(EMS)を提供する環境経営戦略総研である。
■デマンドレスポンスの先駆者
環境経営戦略総研は、日本におけるデマンドレスポンス(DR)事業の先駆者である。DR事業とは、電力会社からの要請に応じて、電力ピークを抑制するサービス。電力会社から信号を受けると、電力利用者に需要抑制を通知し、電力ピークを低く抑える行動を促す。ピーク抑制の達成度に応じて、電力会社から委託料をもらい、節電に協力した利用者に分配する仕組みである。
2012年の夏、同社は東京電力、関西電力、九州電力と業務提携し、DRのサービスを提供した。2012年8月30日には関西電力からの要請に基づき13時~16時の3時間、電力を抑制し、平均して目標電力抑制量の96%を達成した。東京電力からの抑制要請に対しては、目標抑制量を大きく上回る約2倍の抑制量を実現した。環境経営戦略総研が節電を要請する電力利用者は、全国4400店舗のスーパーマーケットである。
■4400店舗の屋根で太陽光発電
環境経営戦略総研は、それら「節電所」としてのスーパーマーケットを「発電所」としても利用することで、メガソーラーを実現する狙いである。4400店舗の屋根に太陽光パネルを設置すると、約50万kWの出力になる。これはメガソーラー500カ所分に相当する。家庭の電力使用量に換算すると約14万軒分である。
しかし、スーパーマーケットにとって太陽光発電事業はあまりに畑が違うビジネスである。できれば初期投資が少なく、実業である小売業に支障をきたさないローリスクが望ましい。DR事業に参加する場合も、初期投資は少なく、需要抑制に協力すれば収入が得られるローリスクな仕組みだったので、導入が容易だった。
■ローリスクな屋根貸しビジネス
表1 太陽光発電事業の比較。屋根を一定金額で賃貸する場合、リスクはほとんどない。比較では、太陽光発電システムの設置容量を1MWとして試算した。実質事業年間収入は、全量買い取り制度を利用して売電した収入から運用費用を除いた額。年間運用費用は、設備維持管理及び更新・修繕に掛かる費用を年率換算で積み立てた費用(表:環境経営戦略総研)
そこで環境経営戦略総研は、スーパーマーケットが参入しやすいようにローリスクな屋根貸しビジネスを導入した。
一般にメガソーラーの実現手法は3通りある。(1)自己投資、(2)太陽光パネルのリース、(3)屋根を発電事業者に貸す、である。これら3通りのプランを比較すると屋根貸しがローリスクであることが分かる。
1メガワット(MW)の太陽光パネルを設置する場合、自己投資であれば初期投資に約3億2000万円がかかる。実質事業収入は年間3700万円と試算できるが、その収益は天候に左右され、リスクは高い。実際の収入が、試算した収入を大きく下回る可能性もある。
太陽光パネルをリースした場合、初期投資負担はなくなるが、やはり収益が天候に左右される点では自己投資と同様に試算した通りに行かない可能性が高くなる。
3つ目の屋根を発電事業者に貸した場合は、初期投資負担はなく、屋根の賃貸料が安定して入ることになる。その実質事業収入は年間で約200万円と自己投資した場合になどに比べて小さいが、天候に左右されないという点でリスクはかなり低くできる。屋根貸しビジネスを導入したのは、そのためである。
■大型スーパーなら1店舗で3000万円の収入
屋根の賃貸料が少ないとはいえ、スーパーマーケットのチェーン店であれば、ある程度の規模の収入になる。あくまでもモデルケースだが、屋根貸しによる累積収益を試算すると、大型スーパーマーケット1店舗で20年間に3000万円の収入になる。大型1店舗と中型10店舗であれば合計9000万円、大型1店舗と中型40店舗なら合計2億7000万円になる。ローリスクで手に入れる金額としては十分に大きい。
屋根貸しビジネスには、賃貸料収入以外にも大きなメリットがある。電気料金を節約できる点である。屋根に太陽光パネルを設置すると断熱作用が働き、店舗内の温度が上がりにくくなる。そのため夏の空調の電力消費が抑えられ、電力料金が安くなる。
また、CSR(企業の社会的責任)の観点からも、メリットは大きい。各店舗に太陽光パネルが設置されることで企業の活動をアピールすることができる。これまでは未利用だった屋根を利用して、収益と企業イメージの向上につなげることができる。
環境経営戦略総研が手掛ける発電ビジネスのモデルは、スーパーマーケットは屋根を貸すだけであり、それを取りまとめて発電事業を運営するのは特別目的会社(SPC)が行う。SPCは、スーパーマーケットとの屋根の賃貸契約、電力会社への売電事業、太陽光パネルの設置と保守/運用の業務委託など本ビジネスの中核としてすべての取りまとめ役を担う。
■融資を躊躇する金融機関
環境経営戦略総研によると、スーパーマーケットの屋根を利用した発電ビジネスは、まだ軌道に乗ったとは言い難い状況にある。中心的役割のSPCが十分な融資を受けられないからだ。
再生可能エネルギーの全量買い取り制度は、期間が20年間あり、その間にスーパーマーケットを建て替える可能性があることや、20年後に屋根を元に戻す費用が分からないなど、金融機関がリスクを把握しきれないことが原因である。
特に、国内の金融機関にとっては初めてのことなので融資に踏み切れないところが多い。環境経営戦略総研は、米国、スペイン、韓国などの経験のある企業と提携して、資金を確保する動きに出ている。国内の金融機関も、海外の事例などを参考にして、なるべく早く融資の枠組みを構築しなければ、優良な融資先を失う可能性がある。
もし、資金の流れが滞れば、再生可能エネルギーの普及にもブレーキがかかってしまうかもしれない。
(記事:日本経済新聞)