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野立て太陽光発電システムの基礎設計と工法について
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野立て太陽光発電システムの基礎設計と工法について

2012年7月に固定価格買取制度がスタートして以来、住宅用市場を遥かに上回る速度で拡大している産業用太陽光発電市場。 採算性が向上した現在では、全国の自治体や様々な企業が太陽光発電事業に参入しており、大きな話題となっています。

「大規模太陽光発電システム導入手引書」の提供元であるNEDOを始め、様々な研究機関が太陽光発電システムの導入に関する資料を発表していますが、 その多くは太陽光発電システムや電気部分の設計、各種法令の手続きに関する部分に重点を置いたものが多い一方で、 架台を設置する「基礎」及び「基礎工法」について言及された資料はあまり見受けられません。

基礎は建築物や構造物を支え、垂直荷重、水平荷重を効果的に地盤へと伝える役割を担う重要な構造部分です。 太陽光発電システムにおける基礎や架台の強度は、発電事業そのものの安定性、継続性に影響してくるため、適切に設計を行わなければなりません。

ここでは、野立て発電(フィールド設置)で用いる基礎の設計要件や工法などを、 JIS(日本工業規格)のC8955「太陽電池アレイ用支持物設計標準」に基づき、具体的な数値を交えつつ解説していきます。


基礎工法の種類

野立て発電システムの基礎を設計する際に、最も大きな懸念事項となるのが台風や突風などによる風害です。

そのため建築分野において用いられる基礎は、どのような構造にすれば地盤沈下が起こらないか、水平荷重に耐えられるかということを念頭に設計されます。 野立て発電を含む地上設置型の太陽光発電システムに用いられる基礎の場合に、どの程度の重量(杭工法の場合は引き抜き強度)があれば強風に耐えられるか、ということを軸に設計されます。

野立て発電システムに用いられる基礎工法には、大きく布基礎・ベタ基礎・置き石基礎の三種類があり、 もちろんのことながら、それぞれにメリットやデメリットがあるため、事業予算や工期の観点から適した工法が選択される傾向があります。

■ 布基礎(独立基礎)

根切りしたスペースに捨てコンクリートを流し込み、その上に型枠と鉄筋を拵えてコンクリートを流し込むという工法で現在のところ最も多く採用されている方式です。

布基礎

必要なコンクリート量を抑えられるため、コスト面では非常に有利と言えますが、重量を稼ぎにくいというデメリットがあります。 実際に、現在施工されている布基礎の多くが重量不足であるとされており、基準風速の低い地域や建築物などが多く存在している地域においては問題ありません。 ですが、広大な土地では今後非常に強い台風が到来した際に損害が出るのではないかと懸念されています。

■ ベタ基礎(連続基礎)

架台から掛かる荷重をコンクリート基礎全体で支え、上からの荷重を平均的に地面に伝える工法。 布基礎が線と線で支える基礎であるとすると、ベタ基礎は面で支える基礎と言えるでしょう。

ベタ基礎

型枠さえ仕込んでしまえば、後はコンクリートを流し込むだけなので非常に施工性に優れた工法と言えます。 ですが、その分必要となるコンクリート量が多くなり、コストが跳ね上がるため、敬遠される傾向にあります。
しかし、安定感は布基礎を遥かに上回るため、予算に余裕がある場合はベタ基礎を選択する方が賢明と言えるでしょう。

■ 置き石基礎(サイコロ基礎)

コンクリートブロックやサイコロブロックといったコンクリート二次製品にアンカーを取り付け、そこに架台を設置するというもの。

置き石基礎

既成品にアンカーボルトや架台を取り付けるだけで基礎として利用出来るようになるため、工期やコストを大幅に削減できます。 また、事業終了後の復元が容易であることなどがメリットとして挙げられます。

ただし、これも布基礎と同様に重量を稼ぐことが難しく、また重量が十分である場合でも輸送が負担になることが予測されるため、慎重な検討が必要となります。


太陽光アレイに作用する風圧荷重(負圧)

太陽光アレイ(以下、アレイ)が強風で飛ばされないようにするためには、パネルや架台、基礎を合わせた固定荷重が風圧荷重を上回っていなければなりません。
本記事内でいう風圧荷重は、全て負圧のものとします。)

アレイに作用する風圧荷重の求め方は、JIS(日本工業規格)のC8955「太陽電池アレイ用支持物設計標準」に記載されています。

では実際に、傾斜角度が20度のアレイに作用する風圧荷重はどのくらいなのでしょうか。今回検証する太陽光発電システムの概要、設置環境は以下のように仮定します。

検証条件

一組のアレイに作用する風圧荷重を求めるためには、アレイの1㎡あたりに作用する風圧荷重を求めることから始めます。 風圧荷重は、風圧荷重(N)= 風力係数(Cw)× 速度圧(qp)× 受風面積(Aw)の計算式で求めることが出来ます。

風力係数の求め方

風力係数は、風を受ける構造物の形状によって異なってきます。流線型の新幹線が正面から風を受ける場合と、 四角い構造物が正面から風を受ける場合では、風の抵抗力は全く異なります。
これを考慮したものが風力係数で、地上設置型の太陽光アレイに関しては以下の計算式で求めることが出来ます。(JIS C8955 15頁)

風力係数(Cw)= 0.71 + 0.016θ
(θ:アレイ面の傾斜角度。ただし、15度 ≦ θ ≦ 45度)

今回検証するアレイの傾斜角度は20度なので、0.71 + 0.016 × 20度の計算式から、このシステムの風力係数は1.03になることが分かります。

速度圧の求め方

速度圧とは、字の通り「風の作る圧力」を表す数値で、以下の式で求めることが出来ます。
速度圧(qp)= 基準風速^2(Vo^2) × 0.6 × 環境係数(E) × 用途係数(I)
速度圧を求めるためには、先に基準風速、環境係数、用途係数を求めなければなりません。

基準風速

基準風速とは、その地方における過去の台風の記録(最大風速)に基づき、50年に1度の大型台風を想定して国土交通大臣が定める風速のこと。 設計風速を決定する際の基準となる風速で、全国の市町村別に30m/sec~46m/secの範囲内において数値が定められています。

今回は、多くの市町村で採用されている34m/secの基準風速を用います。

環境係数

環境係数とは、設置環境や状況によって受ける影響を補正するための数値で、
環境係数(E) = 高さによる補正値^2(Er^2)× 風速の変動による補正値(Gf)
の計算式で求めることが出来ます。

高さによる補正値Erは、Er = 1.7 ( Zb ÷ Zg )^α の計算式によって求められますが、 Zb 及び Zg、α、Gfに代入する数値は設置場所の地表面粗度区分に応じて異なってくるため、下図を参照して下さい。

地表面粗度区分に応じた各値

今回は地表面粗度区分 Ⅱの地域に設置すると仮定しているので、Zb = 5m、Zg = 350m、α = 0.15の数値を用いることになります。
したがって、高さによる補正値Erは、Er = 1.7 ( 5 / 350 )^0.15 = 0.85となり、今回の環境係数は0.85^2 × 2.2 =1.58になることがわかります。

用途係数

用途係数は、システムの用途によって異なってきます。 極めて重要な太陽光発電システムの場合、用途係数Iには1.32が用いられますが、通常は1.0が用いられるケースがほとんどでしょう。

これらの計算から、速度圧は34m^2 × 0.6 × 1.58(E)× 1.0(I)= 1095.88 Nとなります。

風圧荷重の求め方

最後に、この数値を冒頭の風圧荷重の計算式に当てはめることによって、アレイ1㎡に作用する風圧荷重(負圧)が算出されます。

風圧荷重(Wp)= 1.03 × 1095.88 × 1 = 1128.75 N
(9.81N = 1kgf として換算)
1128.75 N ÷ 9.81 N =115.06 kgf

したがって、風速34m/sの風に耐えるためには、アレイ1㎡あたり115kgの重量が必要となるということです。 以下は、上記の計算を用いて算出した設置角度別アレイに作用する風圧荷重の一覧表と、計算式をまとめたもの。

設置角度別、アレイに作用する風圧荷重一覧
傾斜角度20度のアレイに作用する風圧荷重の求め方

基礎に求められる具体的な重量

では、具体的に基礎にはどのくらいの重量が求められるのでしょうか。

フィールドに設置する場合、最も大きな懸念材料とされているのが台風です。
気象庁が定義する最大風速44m/sec以上の「非常に強い台風」に耐えるためには、およそアレイ面積1㎡あたり191kgの重量が必要となります。
(傾斜角度が20度の場合。(44m/sec ÷ 34m/sec)^2=1.66、115kg/㎡ × 1.66 = 190.9kg/㎡)

例として、一枚あたりの面積が1.65㎡(1,650mm × 1,000mm)の太陽光パネルを用い、3段10列でアレイを組む場合に必要となる基礎の重量を計算してみましょう。 アレイ面の傾斜角度は20度、最大風速は44m/secと想定して算出します。

30枚の太陽光パネルを用いた場合のアレイ面積Sは、S = 1.65㎡ × 30枚 = 49.5㎡となることがわかります。 このアレイに掛かる風圧荷重Pは、P = S × 191kg = 9454kgfとなりますが、平均的な太陽光パネルと架台の重量は20kg/㎡であるため、 Pから固定荷重を引いた値が目安となる風圧荷重となります。

したがって、この場合基礎に求められる重量は、9454kgf -(20kg × 49.5㎡)= 8464kgとなり、 これを体積で表すとおよそ3.7㎥のコンクリートが必要になるということです。(コンクリート1㎥あたりの質量を2.3tとして算出)


事業継続性確保のためにも適切な設計を

現在、日本全国でミドルソーラーやメガソーラーを始めとする野立て発電所の建設ラッシュが巻き起こっていますが、 これまでの計算から求められた基礎重量をクリアしている発電所は実際には多くないと推測されます。

あくまで、ここで算出された数値は台風などを考慮した場合の数値であるため、日常的に発電する分には、これらの数値を満たしていなくとも大きな問題は発生しないと言えます。

しかし、異常気象の傾向が強まっている近年、今後どのような災害が襲ってくるかは誰にも予想出来ません。 適切な設計・施工は、太陽光発電事業の長期運用を実現する重要な要素となるため、 事業予算の許す限り基礎や架台にもコストをかけることが事業継続性の向上を図るためにも望ましいと言えるでしょう。